「旅路のはての空まで、つつがなく!」(J.R.R. Talkin、瀬田貞二譯、岩波書店)
遠い異國にあなたが赴くのは、さびしく不思議なことです。殘された人々と、あなたとの間には、遠い昔モンゴル帝國の早馬たちが驅けた道があるのではありませんか? たぶん、その道は通らないけれど、繩文人が海を渡り西に渡つたとさへ夢想するひとがゐる海を超え、さまざまな欲望が、結局自然を二囘殺した大陸を超え、慾と斷絶とが交はされた海を超え、さうしていくらにも中繼されて屆いた、幸い電子の藻屑にはなりはてなかつた運び屋たちは、モンゴルの早馬より早く私たちの間を行き來し、距離を幻想的に無限小にしてゐます。だから、私はさびしく不思議なのです。昔、ある詩人は東京といふ新都と阿武隈を隔ててさへ遠い、と思つたものはなんだつたのだらうと、あなたのことを離れて考へてしまひます。
それでもさあ! あなたは遠い所へ行くのだから、私はあなたの道々の幸運をその地に住まふ奧深きものたちが許すことを願はう。そして、あなたを迎へた土地に住まふものたちがあなたを受け入れ、よき客人としてもてなし、あなたの歸り路を幸多きものにしてくれるやう祈らう! 私は明日見送ることはしないけれど――行つてらつしやい!
21:24
——貪欲と嫌惡と迷妄とを捨て、結び目を破り、命を失ふのを恐れることなく、犀の角のやうにただ獨り歩め
(中村元譯『ブッダの言葉 スッタニパータ』74詩、岩波書店、1984)
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