Diary/ + PCC + — HIMAJIN NI AI WO. Love Idle

2005年5月29日(日)

印象小説 (2)

Anandaさんからよくわからんと云はれたし、氣に入らないしで書き直し。少々變はつてゐるところはありますが。

----

 階段には明り取りの窗が小さくあるだけで薄暗かつた。階段を一歩登るごとにサチの足の幻影が重なる。サチのリズムと呼應して薄暗い階段を木靈してゐる。さう、こんなに歩いたのだ。屋上まで後三十一段。屋上の扉には鍵があるけど錆び朽ちてゐるから問題ない。由紀にはなぜかはつきりと判つた。屋上へと出る扉を前にして、由紀は初めて深呼吸した。取つ手に手をかけて力を込めると、ばきばきと鍵が音を立てて壞れ、扉が押し開かれて太陽の光が差し込んできた。
 つひに來た、といふ思ひはしなかつた。何度も見てゐる光景。由紀は扉を閉めて、改めて屋上を見渡した。屋上には誰もゐなかつた。コンクリートの龜裂に生えた草花、へりに巡らされた手摺、あの事件から變はつたものはなにもない。
 わかる。サチが愛でていつた花。手すりの前に巡り歩いた道のり。手すりに殘つた手と足の跡。何もかもが解る。
 由紀は靜かに、しつかりとした足取りで花の前まで歩いていつてしやがみ、さやうならを云はうとした。しかし、ちよつと先の水澑りに雲が映えてゐるのに不意に氣づいて、知らぬ間に立つてゐた。空がある。初めて見る空。サチが手摺に手をかけてから一寸微笑みをかけた空。由紀は一氣に褪めていく感覺に戸惑つた。
 さう、それでいいのよ。死者の聲は生けるものには屆かない。

21:44

a(半角)と入れてください。
 
最近の日記
過去ログへの誘ひ:
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2015