いきなり声を掛けられて、婦人ははっとした。慌ててきょろきょろとし、青年、或る青年の姿を認め、始めは一寸驚き、――すぐにああという顔をした。
「お久しぶりです。」 青年は以前の面影を処々に残しつつも、矢張り、大人びた顔へと変わっている最中だと一目で分かり、爽やかな印象を与えるのは必至だった。
「まあ、すっかり大きくなって、一目には分かりませんでしたよ…お父様は?」
「父はですね……死にました。」
「まあ…。」
婦人は絶句した。さっきまでの青年の顔が、今更藍を帯びていたように感じる。
「……自殺だったんです。」
「…。」
「…半年前でした。悲しかったですよ、父が死んだことだけが私たち遺族を悩ましたわけではないのです、父が母以外の人を愛していたことが、悩ましているのです、…あなたを父が愛していたことが。」
<続>
21:50
——貪欲と嫌惡と迷妄とを捨て、結び目を破り、命を失ふのを恐れることなく、犀の角のやうにただ獨り歩め
(中村元譯『ブッダの言葉 スッタニパータ』74詩、岩波書店、1984)
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