「はい。」
客は再び睨みをきかせていた目をやわらげ、麦茶を受け取った。青年はもはや動こうともしない。
「いや、汗をかいた後には本当においしい。」
「ありがとうございます。ほら、坊や。」
と言って、婦人は子供にコップを渡した。
「ほら、ありがとうでしょ。」
もらっても何も言わない子供は、父に促されて、渋々言った。
「ありがとうおばちゃん。」
「いえ、ほんのお礼ですから。」
「いや、本当にありがとうございました。」
客はその後、警察が来るまでいた。そうして後、子供の手を引いて帰って行った。
<続>
21:16
——貪欲と嫌惡と迷妄とを捨て、結び目を破り、命を失ふのを恐れることなく、犀の角のやうにただ獨り歩め
(中村元譯『ブッダの言葉 スッタニパータ』74詩、岩波書店、1984)
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