老婦人は、この人も数ある通過客に過ぎないと、最初は思った。しかし、どこか受ける感じが違うのだ。
「おばちゃん、麦茶くれい。」
雨の日の売れ筋は、一番安い、麦茶。所詮、通過客は雨宿り代として飲み物を買うのだから、一番飲みやすい上、一番安い麦茶が一番選ばれる。他の客のように、駆け込んできたその人は、長居する気らしく、宇治金時を注文した。長居する客は、それほど、珍しくはない。
「珍しいですね、雨の日に宇治金時なんて。」
その客を、婦人は今まで見た記憶がない。
「夏はいつも、宇治金時って決めてるんですよ。」
渡された宇治金時を崩しながら、その人が答えた。
「皆さん雨止みを待つだけで、麦茶しか買っていってくれないんですよ。」
「そうですか。」
その客は、宇治金時をゆっくりと口に運んだ。
<続>
21:33
——貪欲と嫌惡と迷妄とを捨て、結び目を破り、命を失ふのを恐れることなく、犀の角のやうにただ獨り歩め
(中村元譯『ブッダの言葉 スッタニパータ』74詩、岩波書店、1984)
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