Diary/ + PCC + — HIMAJIN NI AI WO. Love Idle

2006年12月26日(火)

雨降り

たいへんな豪雨、らしい(家の中からは樣子しかわからない)。レポートを書いたり(論題が大きすぎるのであと20日でかける範圍を見いだすべし)、家人とTVを見たり(わらふため)、本を讀んだり(オトナ語の謎、理科系の作文技術)してとりとめもなく過ごす。

けふは、以前書いた詩の推敲など、してみようか。入學してしばらくしたころの氣持がでてゐて、讀めるか讀めないかではなくて今でも氣になるところの多い詩である:

詩人は無垢をたたへ
いまだ訪れぬ恍惚を夢見る
臨界の一點に怯みし
見來し者として語り續ける

I.

恍惚に留まれないで
この地に詩人は殘る
  至高の音は耳に遠く
  彼は置いていかれたのだ
たとへば
闇のまへに恐怖して
地祇の到來を懼る
  耳を塞ぐとも聞こゆかの
  大地の雀躍する音にみたされて
  あるのは恐怖か恍惚か
無垢であることはできないから
怯えることも憧れることもできない

II.

負ひ目はいつたい
かれをどこへと誘ふだらう
  かれは何を書き何を語り
  何を書かず何を語らなかつたか
  かれの目にはなにが見えなにが聞こえ
  そしてなぜそれが書止められたのか
ゆけなかつたものは
導かれるでもなく去るだらう
飽きに滿るまで、その憂ひが慰められるまで
  凪ぐことのない慾の喘ぎが
  彼を律しつづけてゐる
  法悦にひたらうともそこには見えないのだ
けだるくとも良い彼は眠りを求める

III.

けだるいならばけだるいままで
ゐることも難しくない
  風さへもだるさを訴へて
  澱のやうにすべては底沈み
ラジオでもかけて扇風機など囘して
怠惰に眠つてゐよう
すべてこれからくる豫定など幻想で
  眠りといふ眠りは
  怠惰がうつろに食ひ漁つてしまつた
世界はかれを捨てはしまい

IV.

螢光燈にやかれる
皮膚に貯められた火照りは
メラニン色素を働かせる
誰もゐないだだつ廣い部屋で
壁を照らす電燈だけで一人

V.

人聲が風の音にまぎれ
日陰の空氣はけだるく温いけれど
居心地が惡いほどではない
  世闍葺唯佛是眞とつぶやいて
  この世にあらざるものが
  眞かどうかわかりかねた
ラップ・トップ・コンピュータを打つ
その軟らかい抵抗と手のひらに傳はる熱
暖房となるのもわかることだ
  音の止まざるなきを疎ふのはなぜだらう
  ノイズ・キャンセリングをやるやうに
  スピーカの音量を上げる
  聲が消されていく……
遺つた最後の燈りを消して部屋を出て行く、
音のしていくはうへ、
聲の消えていくはうへ……

そして、原詩:

詩人は無垢をたたへ
いまだ訪れぬ恍惚を夢見
臨界する一線を越えられないで
「見來し」者として語り續ける

I.

恍惚に入りきれずに
この地に詩人は殘る
  彼の耳には至高の音も遠すぎた
  彼は置いていかれた
  幻が入つてくるのにひるんだのだ
このだるい現實を
飽きもせず生き續けるからこそ
詩人などしてゐるのだらうか
たとへば
闇のまへに恐怖して
地祇の到來を懼る
  耳を塞ぐとも聞こえるやうな
  大地が雀躍する音がみたされて
  あるのは恐怖なのか恍惚なのか
「無垢である」力はないから
怯えることも憧れることも何か不純だ

II.

その負ひ目は
かれを何に誘はうか
  かれは何を書き何を語り
  何を書かず何を語らないのだらうか
  かれの目にはなにが見えなにが聞こえ
  そしてなぜそれが書止められるのか
ゆけなかつたものは
なにに導かれるわけでもなく去るだらう
飽きが來るまで、その憂ひが慰められるまで
身を焦す慾望の火が
喉を燒き強い渇きを飢ゑを與へて
なされるがままに彼はまかせた
  求めても得られない類の激情が
  彼を律しつづけてゐる
  法悦にひたらうとしてできないのは
  そのためだ
けだるくとも良い彼は眠りを求める

III.

やるせない氣だるさはそれでゐて
忘れるのにはよくできてゐる
けだるいならばけだるいままに
ゐることも難しくはない
  風さへもだるさを訴へて
  いやいやに押されてすぐに止まる
澱のやうにすべては底沈み
ラジオでもかけて扇風機など囘して
怠惰に眠つてゐよう
すべてこれからくる豫定など幻想であり
この怠惰を妨害するものなどないといふ
世界の法則が優しく守つて呉れやう
  眠りといふ眠りは
  怠惰がうつろに食ひ漁つてしまつた

IV.

螢光燈が私をやく
皮膚に貯められたエネルギーは
火照りとなりメラニン色素を働かせる
誰もゐないだだつ廣い部屋で
壁を照らす電燈だけをつけて一人

V.

熱つぽい體を日の當らない風の屆くところにおいて
あまり考へないで手を動かす
人聲が外から入り風の音にまぎれ
空氣はけだるく温いけれど居心地が惡い
ほどではない
  世闍葺唯佛是眞とつぶやいて
  この世にあらざるものが
  眞かどうかわかりかねた
  この世にあらざると思ふものは
  案外この世にあるものだが
熱のひどさのわりにラップ・トップ・コンピュータのバッテリは長持ちして
手に傳はる熱つぽさは暖房になるのも了解できた
廣いヘ室に一人
  明るいうちは音が止まざるなきを
  疎ふのはなぜだらうか
  ノイズ・キャンセリングをやるやうに
  手許のスピーカの音量を上げる
  聲が消されていく……
遺された最後の燈りを消して部屋を出て行く、
音のしていくはうへ、
聲の消えていくはうへ……

半年も前に書いたものを書きなほす、といふ作業は、何う譬へられるだらうか。書きなほしてゐる今の私は、原詩の内容を理解してゐると信じてゐる。校訂者と改訂者をわけるものはなんだらうか。改訂者はあたへられたテキストはもつとよく内容をあらはすことができると信じてゐるのだらう、それでことばを削り改める。

23:46

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